記事のポイント
- ミネラルウォーターへの年間支出は2020年の3,757円から2025年の4,635円へ+23.4%と拡大した。地球温暖化による夏季の長期猛暑が常態化する中、水分補給はもはや嗜好品消費ではなく「命を守るインフラ」として家計が優先的に確保するカテゴリとなっている。
- 若年層を中心とする「ソバーキュリアス(Sober Curious)」――あえて飲まないという選択的非飲酒スタイルと、中高年層の健康診断数値を意識した減酒傾向が重なり、焼酎は2020年の6,615円から2025年の5,637円へ▲14.8%、清酒も5,772円から5,509円へ▲4.5%と低調が続いている。
- 乳飲料は2020年の2,423円から2025年の2,990円へ+23.4%と急伸しており、睡眠改善・腸内環境・ストレス緩和を謳う高機能性乳飲料のヒットが「健康への前向きな投資」として家計の支出を引き出している。機能性飲料への需要拡大は、スーパーマーケットの飲料売場再設計の根拠となる。
「飲み物を買う」という行動の意味が変わっています。かつて「のどが渇いたら飲む」ものだった飲料購買は、今や「健康を維持するために計画的に確保する」という意味合いを帯びています。その象徴がミネラルウォーターの急成長です。二人以上世帯の年間支出は2020年の3,757円から2025年の4,635円へ+23.4%と拡大しました。5月から10月にかけて酷暑が常態化する現在の日本において、水分補給はもはや個人の嗜好ではなく「命を守るインフラ」として機能しています。スポーツドリンクも2020年の1,348円から2023年には1,641円まで急増しており(その後やや落ち着き2025年は1,571円)、熱中症対策需要の季節的な高まりが数字に表れています。
健康意識の変化は乳飲料にも表れています。年間支出は2020年の2,423円から2025年の2,990円へ+23.4%と、ミネラルウォーターと同率の伸びを示しています。背景にあるのは、睡眠の質の向上・腸内環境の改善・ストレス緩和を謳う高機能性・高付加価値乳飲料のヒットです。家計は食料費全体を切り詰めながらも、「自分の機能的な健康増進に寄与する商品」には高いプレミアムを支払う「メリハリ消費」を実践しています。この選択的な健康投資は、単価の高い機能性飲料を積極的に品揃えするスーパーマーケットにとって、利益率改善の重要な機会となっています。
対照的に停滞しているのがアルコール飲料です。焼酎への年間支出は2020年の6,615円から2025年の5,637円へ▲14.8%と大きく落ち込み、清酒も5,772円から5,509円へ▲4.5%と低調です。この背景には「ソバーキュリアス(Sober Curious)」と呼ばれる若年層の動きがあります。禁酒するのではなく「あえて飲まない・飲む機会を意識的に減らす」という選択的非飲酒のライフスタイルが広がっており、Z世代・ミレニアル世代を中心に、日常的に飲酒をしない人の割合が増えているといわれます。加えて中高年層では「健康診断の数値を見て、量を減らした」という意識的な減酒が定着しています。価格が上昇しているにもかかわらず名目支出額すら伸びない状況は、需要そのものが構造的に縮小していることを示しています。
飲料・酒類売場の設計において、この10年の変化は明確な方向性を示しています。「水・スポーツドリンク・機能性乳飲料」の売場拡大と、「高機能・健康訴求飲料の棚前面化」が来客の需要変化に対応する方向です。一方、酒類売場においては、若年層向けのノンアルコール・低アルコール商品(RTD・クラフトビール・ノンアルコールビール)への移行が消費者の選択肢として育ちつつあり、この領域の品揃えがアルコール売場全体の活性化につながる可能性があります。
飲料売場は「のどが渇いた時に買う場所」から「健康を管理するために計画購買する場所」へと、消費者の認識が変わっています。まず自店の飲料カテゴリにおいてミネラルウォーター・スポーツドリンク・機能性乳飲料の売上構成比と、ノンアルコール飲料の月次ABC分析を実施し、地域の気候・年齢構成に合った最適な棚割を再設計するところから始めてみてください。
■コラム一覧
・第1回:「入場税廃止」からビッグマック500円まで――デフレ均衡が崩れた37年の価格史
・第2回:「賃金↓→転嫁拒否→賃金↓」――デフレ均衡方程式と5フェーズの時代背景
・第3回:「主食の大逆転」が示す――エンゲル係数と食費構造25年の地殻変動
・第4回:「タイムパフォーマンス」が惣菜を選ぶ理由とは?――中食化25年と調理時間の機会費用
・第5回:単身世帯の平均年齢は58.6歳――「プロテインシフト」と食の個人化の25年
・第6回:「カップ麺が相対的に安い」――穀類消費変容と即席麺が選ばれる「機会費用」の論理
・第7回:かぼちゃ購入量▲26%が教える――生鮮価格高騰と「適応の2段階」メカニズム
・第8回:ミネラルウォーター+23%、焼酎▲15%――健康志向と気候変動が変えた「飲む」という選択
・第9回:「地産地消で盛岡のかぼちゃは安い」――都市別データが映す地域格差と棚割戦略
・第10回:沖縄はスパムと米、北海道は自炊――「37年の眠りから目覚める」日本の食と持続的成長の条件
