記事のポイント
- かぼちゃへの年間支出は2020年の1,635円から2025年の1,790円へ微増に見えるが、購入数量は4,169gから3,518gへ▲16%も減少している。「支出はほぼ同じでも、買える量は大幅に減った」――これが生鮮野菜における家計の物価体験の実態である。
- 特に2023年の猛暑による作柄直撃でかぼちゃの平均価格は100gあたり50.88円と2020年比+30%に急騰し、購入数量は4,169g→3,089gへ▲26%と急落した。しかし2024〜2025年に数量が3,500g台に回復しているのは「第2フェーズの受容」――高価格でも購入せざるを得ないと家計が判断した結果である。
- 単身世帯では生鮮魚介が20,275円→13,989円へ▲31.0%の長期縮小が続く一方、肉類は16,561円→27,826円へ+68.0%と急増し、2005年以降は肉が魚介を上回る「プロテインシフト」が定着している。生鮮野菜・果物・魚介のどのカテゴリでも「買う量を減らして価格高騰に対応する」という適応メカニズムが働いている。
生鮮食品の価格高騰を語るとき、「支出金額」だけを見ると実態を見誤ります。かぼちゃ(二人以上世帯)のデータを見てみると、年間支出金額は2020年の1,635円から2025年の1,790円へ+9.5%の微増ですが、購入数量は4,169gから3,518gへ▲16%も減少しています。支出はほぼ同じでも、手に入る野菜の量は大きく減った――これが「インフレによる実質的な食卓の縮小」の具体的な姿です。売上金額だけを見ていると、消費者の負担増と行動変化を見逃してしまいます。
この適応プロセスには2つの段階があります。第1フェーズは「量を減らす」。2020年に100gあたり39.21円だったかぼちゃは、2022年に41.45円、2023年の猛暑直撃で50.88円へと急騰しました。この価格上昇に対し、家計は購入量を2020年の4,169gから2023年には3,089gへ▲26%と急減させることで対応しました。代替品(冷凍野菜・もやし・きのこ類など価格安定品)へのシフトも起きています。トマトは2021年比で2024年に約38%増、きゅうりも同じく約46%増という急騰が、同様のメカニズムを引き起こしています。
第2フェーズは「高価格を受容する」。2024〜2025年にかけてかぼちゃの購入数量は3,518〜3,520gへとリバウンドしています。平均価格が50円前後で高止まりするにもかかわらず、です。これは「これ以上の量的削減が食卓の維持にとって困難になった」という家計の限界を示しています。何年も量を減らし続けた消費者が、最終的に「高くても受け入れる」という段階に達したわけです。この第2フェーズでは、「高くても買いたい理由」を提示できる売場(産地訴求・食べ方提案・レシピPOP)が、消費者の購買意欲を確実につかみます。
生鮮たんぱく源のカテゴリでも同じ適応が起きています。単身世帯の生鮮魚介支出は2000年の20,275円から2025年の13,989円へ▲31.0%と長期的に縮小する一方、肉類は16,561円から27,826円へ+68.0%と急増し、2005年以降は肉類が魚介類を上回る「プロテインシフト」が定着しました。「調理の手間・コスト・廃棄リスク」という観点から魚より肉の方が合理的という判断が、25年かけて家計に根付きました。鮮魚部門の縮小に歯止めをかけるには「食べやすい形(刺身・フライ・蒸し焼き)」への転換と食べ方提案の充実が不可欠な対策となっているのではないでしょうか。
■コラム一覧
・第1回:「入場税廃止」からビッグマック500円まで――デフレ均衡が崩れた37年の価格史
・第2回:「賃金↓→転嫁拒否→賃金↓」――デフレ均衡方程式と5フェーズの時代背景
・第3回:「主食の大逆転」が示す――エンゲル係数と食費構造25年の地殻変動
・第4回:「タイムパフォーマンス」が惣菜を選ぶ理由とは?――中食化25年と調理時間の機会費用
・第5回:単身世帯の平均年齢は58.6歳――「プロテインシフト」と食の個人化の25年
・第6回:「カップ麺が相対的に安い」――穀類消費変容と即席麺が選ばれる「機会費用」の論理
・第7回:かぼちゃ購入量▲26%が教える――生鮮価格高騰と「適応の2段階」メカニズム
・第8回:ミネラルウォーター+23%、焼酎▲15%――健康志向と気候変動が変えた「飲む」という選択
・第9回:「地産地消で盛岡のかぼちゃは安い」――都市別データが映す地域格差と棚割戦略
・第10回:沖縄はスパムと米、北海道は自炊――「37年の眠りから目覚める」日本の食と持続的成長の条件
