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テレワークにおいても育成上手なマネージャーになるには

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記事作成日:2024年3月29日 (金)
執筆者:辻村尚史

テレワークが定着し、週の数日は在宅勤務をする方が増えたと思います。「デスクの目の前に部下がいない」中で、どうすれば組織の中核を担うマネージャーが真の力を発揮できるのでしょうか。 重要な任務の一つである「育成」が上手なマネージャーとなるためには何が必要でしょうか。

北海道大学大学院の教授である松尾睦氏は、その著書「部下の強みを引き出す経験学習リーダーシップ」(ダイヤモンド社)のなかで、調査研究を基に 「『育て上手』なマネージャーは3つの指導方法に長けている」 としました。

その3つとは
1)強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける
2)失敗だけでなく、成功も振り返らせ強みを引き出す
3)中堅社員と連携しながら思いを共有する
です。

特に、ポイントとなるのが上記の3つの指導を融合させながら、その人個人の「強みを引き出す」という点です。
そして、この「強みを引き出す」ことは、心理学、経営学、哲学的な観点からも重要な要素であることが説明されています。

◇心理学:強みを生かすことで人は「ポジティブな結果」を生み出す
◇経営学:部下の強みを引き出すことが「マネージャーの役割」である
◇哲 学:人材の強みを生かし、社会に貢献することが「善」につながる

言ってみれば「強みを引き出す」ことに集中してこそ、真に企業・組織そして社会に貢献する人を導くことができる「育て上手なマネージャーになる」ということです。

強みを引き出すことの重要性

翻って、皆さんは、あるいは皆さんの会社のマネージャーという立場の方々はいかがでしょうか。
部下個々の「強み」にどれくらい目が向けられているでしょうか。 「強みを引き出す」ことがどれくらい意識的にできているでしょうか。
特にテレワーク一般的になった今、各個人の裁量と統制でどんどん仕事を進めていってもらう必要が出てきています。

とすれば、細かく目を行き届かせることが物理的に不可能なテレワークにおいてはマネージャーからの「管理」ではなく、部下の強みを引き出して、自発的に行動してもらうことが必要になってくるのは火を見るよりも明らかです。

これからの育成

松尾氏が挙げるポイントは、業績、目標、数字、管理といったこれまでの経営で使われてきた言説からは一線を画すものです。

育成の観点においても、その人の「強み」を見る、あるいは活かすことが重要だ、とは言われてきたものの、組織的な都合も優先され、個人の強みを引き出すことはおざなりだったと言えましょう。

もちろん、業績をはじめとした数字が大切なことはもちろんですが、劇的に変化し続けている現代においては、これまでと同じ価値観のままでは企業の経営や組織・人の育成は成り立たないということでもあります。
世間では個人の価値観の多様化が言われて久しいですが、果たして企業・組織はどれくらいアップデートされ、そこで働く個人の価値観の多様化に対応できるようになっているのか。

そこは厳しく問われねばなりませんし、気づいた時には手遅れ、とならないようにせねばなりません。

3つの指導方法と「強みの引き出し方」

1)強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける

まず、一つ目の指導方法の中で、ポイントは強みの探り方です。
松尾氏の著書の中でも、強みを探る際に「見えている強み」と「見えていない(潜在的な)強み」を分けて、特に「見えていない強み」すなわち「隠れている」強みを探ることの重要性が述べられています。
これはある仕事を試しに任せた中で見えてくることもありますし、雑談の中で発見したという例も挙げられています。

まず、あらゆる状況においてしっかりと部下を「観察する」ことが求められます。
さらには「成長ゴール」を決める際にも、部下に対して「期待すること」の重要性がポイントとして挙げられています。

特に日本の企業では、仕事一つ一つについて、方針ややり方、作業的な話はするものの、相手に対する期待を述べるということは少ないです。
「この仕事を通じて、あなたにどうなってもらいたいのか」を丁寧に伝えることは、相手からの信頼獲得にもつながります。

これは、コロナ禍の今、テレワーク等で仕事の意義やつながりなども伝えにくい、伝わりにくい状況だからこそ、丁寧に伝えていく必要があります。

2)失敗だけでなく、成功も振り返らせ強みを引き出す

二つ目の指導方法では、特に「成功を振り返らせる」ことがポイントです。
とかく日本は「反省」することが美徳とされ、成功を振り返ることはせず「なぜ失敗したのか」にフォーカスしがちです。

もちろん、二度同じ失敗をしないように丹念に原因を探ることは必要です。
一方で育成、特に個人の成長を考えた場合「もう一度うまく実行するために」事実に基づいて成功を振り返り、再現性を高めることはモチベーションアップに有効です。

これは、コロナ禍の状況だけではないですが、本人のやる気の維持と不安払拭、さらには「より良くするためにはどうするか」を自発的に考え行動してもらうためにも重要な観点です。

3)中堅社員と連携しながら思いを共有する

最後に、3つ目の指導方法では「連携」「共有」がキーワードになります。
この「連携をしながら共有する」という要素は、優秀と言われるマネージャーほど、実はうまくいかず陥ってしまう落とし穴と言ってもいいでしょう。 なぜなら、優秀なマネージャーはその優秀さゆえに、自分ひとりで管理することができてしまうからです。

真にマネージャー自身がやるべきことにまい進するためにも、自分が疲弊したり燃え尽きたりしないよう、部下に任せていくことが求められます。
部下に任せ、部下が「自走」できるようにするためにはどうするか。

この時に必要なのは、部や課の状況にも拠る部分もありますが、自身と特に若い部下たちをつなぐ中堅社員を前面に出して運営をしていく、ということです。
前面に出す、とは例えばミーティングの実施主体を中堅社員に任せる、あるいは部下の意見が出しやすい雰囲気づくりをする、などです。

その状況を作りつつ、マネージャー自身は自分の思いや考え方自体を都度伝えていく。その思いや考え方を「ビジョン」に昇華させながら、物事の判断をその「ビジョン」中心に全員が考えられるようにしていく、というものです。
こうすることで、自身が常に手をかけながら、管理しながらという事態を避け、部下が「自走」しつつ育成されることになります。
真の意味で組織・チームが持っている力を発揮できる状態と言えるでしょう。

「思い」の共有は、テレワークだからこそ、ますます必要な部分です。力を合わせて難局を乗り切るた めにも、じつは「思い」や「考え方」の共有は欠かせない要素となります。

以上、簡単にではありますが、松尾氏の著書を基に「育成上手なマネージャーになるため」には何が必要なのか、見てきました。
この著書は調査研究を基に、実証的に必要な要素、育成を預かるマネージャーにとって不変の要素が書かれており、客観性のある提言がなされています。
このコラムがマネジメントの参考になれば幸いです。

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