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ニューノーマル時代の、仕事の「フィードバック」のあり方を考える

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記事作成日:2023年8月1日 (火)
執筆者:辻村 尚史

新型コロナウイルス感染症の影響によって、多くの企業でリモートワークが導入され、働き方の多様化が広がりました。コロナ禍のピークが落ち着きつつある現代では、リモートワークの普及率が減少傾向をたどっていますが、「出社とリモートワークのハイブリッド型」を取り入れている企業も多いのが現状です。

チームを束ねるリーダーにとっては、リモートワークによりお互いの顔が見えづらく、ますます部下やメンバーへのフィードバックが難しくなったかもしれません。

そのような状況で、リーダーは部下やメンバーに対して、どのようにフィードバックをしていくべきかを考えていきたいと思います。

フィードバックとは

もともとフィードバックの定義は、広辞苑によれば「電気回路で出力の一部が入力側にもどり、それによって出力が増大または減少すること。また一般に、結果に含まれる情報を原因に反映させ、調節をはかること。」とされています。

これがビジネスシーンにも転用され「仕事の結果に含まれる情報を、本人に伝えて修正・改善を図る」といった意味合いで使われるようになり、「フィードバック」という用語そのものも少しずつ一般的になってきました。

人材育成を中心とした研究をしている中原淳氏(現・立教大学経営学部教授)はさらに、実証研究を通じてフィードバックを「耳の痛いことを部下にしっかりと伝え、彼らの成長を立て直すこと」と定義づけています。

より具体的には「情報通知」「立て直し」の2つの働きかけを通して、問題を抱えた部下や能力・成果の上がらない部下の成長を促進することを目指すものとしています。

  • 情報通知…たとえ耳の痛いことであっても、部下のパフォーマンス等に対して情報や結果をちゃんと通知すること(現状を把握し、向き合うことの支援)
  • 立て直し…部下が自己のパフォーマンス等を認識し、自らの業務や行動を振り返り、今後の行動計画を立てる支援を行うこと(振り返りと、アクションプランづくりの支援)

フィードバックのための「SBI情報」

中原氏はさらに、上記で挙げた2つの働きかけのためのフィードバックの際に必要なデータとして「SBI情報」を準備しておくことが望ましいとしています。ここでは、この「SBI情報」にフォーカスして話を進めていきます。

さて、改めて皆さんはこの「SBI情報」というのがどのようなものかご存知でしょうか。

ここで言うSBIとは、シチュエーション(Situation)、ビヘイビア(Behavior)、インパクト(Impact)の頭文字をとったものです。

シチュエーション

どのような状況でどんな状況の時に

ビヘイビア

部下のどんな振る舞い・行動が

インパクト

周囲やその仕事に対してどんな影響をもたらしたのか、何がダメだったのか

と定義しています。

このSBIにあたる情報を部下に具体的に伝えることが、適切なフィードバックにつながるとされています。

例えば、「来年1月までの全社プロジェクトを担当してもらっているが(S)、他部門のキーとなるメンバーの巻き込みが不十分なので(B)、プロジェクトの遅れが生じてきているね(I)」といった形です。

これまでのフィードバック

これまでのフィードバックは、原則的には出社をしての仕事に対して行われ、そして対面での進捗管理が基本でした。これは前提中の前提とされていたこともあり、多角的な情報収集をもとにしながら(例えば他部門から入ってくる声や評価など)、SBI情報における特に「S」と「B」の要素が、上司の目の届く範囲で直接的に分かる状態で理解し、伝えるフィードバックが出来たのです。

しかしリモートワークによる働き方が増えた昨今、フィードバックそのものに必要な原則は変わらないにせよ、そもそもこのSBI情報をどのように集めるのか、そしてどのように伝えるのかという根本的な部分が大きく変わろうとしています。

では、どのようにフィードバックをしていけばよいのでしょうか。

これからのフィードバック

リモートワークが行われるようになった近年の働き方において、どのように仕事のフィードバックをしていくべきでしょうか。

情報収集における実際的な問題として、週に何回かでも出社をする働き方であれば、直接的に情報を集めることが可能です。その際には、数十分で良いので必ず部下と対面で情報交換をするなどし、仕事の進捗について確認をすることが重要です。

しかし例えばフルリモートでの働き方の場合はどうでしょうか。どのように仕事に取り組んでいる状況(S)か、またどのような振る舞い・行動をとっている(B)か把握することは、ほぼ難しいでしょう。

そこで、このSBI情報に照らし合わせた時には、フィードバックの発想を180°転換することが求められます。(もちろん計画段階などでのすり合わせをしっかりと行っている前提となりますが)

フィードバックの発想転換

すなわち、インパクト(I)の部分から共有をしていき、そのインパクトに至るプロセスとしてどのようにS:シチュエーションとB:ビヘイビアが行われたか、本人の口から語らせることが重要です。

たとえば前回の例で言うと、まずプロジェクトの進捗はどうか、本人に語らせたうえで、自分もわかる範囲での客観的意見として「プロジェクトに遅れが出つつあるように見えること」を伝えます。

そしてお互いにI:インパクトを握った(共有した)後、なぜそれが起きているかを内省してもらい、本人の言葉として出て来るようにする必要があります。(その後に、他部門のキーメンバーとはどのように連絡を取って進めてる?と聞くなどしていく)

このように SBIの順番を入れ替えながら、起きている事実をもとにある意味で「本人からの言質として成果や進捗を把握していく」といった、発想の転換やスキルがこれからのフィードバックには必要となります 。

またリモートであっても、定期的な情報収集のための面談機会は、積極的に作っていく必要があることは言うまでもありません。

最後に:ニューノーマル時代のフィードバックのあり方

中原氏が言うように、フィードバックは「情報通知」と「立て直し」を目的として、そのための「SBI情報」を集める、という原則としての重要性は大きく変わらないと思います。

しかし、もしフィードバックを「管理」の一部と考えているならば、これからの時代はその発想からの脱却が求められます。マイクロマネジメントなどはそもそも不可能と考え、部下本人との「伴走」の記録としてフィードバックを位置づけることが重要です。

ここで言う伴走とはすなわち、ゴールを共有する、あるいは成果を共有することを最優先に位置付けて、そのためのプロセスややり方はかなりの程度本人に任せていき、適切に支援・サポートに入る、ということです。

そのために、これからのリーダーに必要なのは、常に「大きな目的や目標を前提としてネクストゴールとステップを本人と共に考えていく姿勢」が求められることは間違いありません。

また方法論的な話として、リモートでフィードバックを実施するような場合には、その場で成果ややり方などをイチから考えて整理していくことは難しいので、報告の型(テンプレート)やそれに基づく事前の準備をしっかりとさせることも大切になってくるでしょう。

「難しいから出来ない」と立ち止まらず、原則を大切にしながら発想を切り替えて対応していくことがこれからのフィードバックに重要なことであり、引いてはこれからのリーダーに求められることです。

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