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時間外労働上限規制の中で、建設技術者をどう育てるのか?(2)

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技術を知識と技能に分解し、誰にもわかりやすくOJT(建設現場教育)しよう

 前回の記事「スキルマップで建設技術者育成の指針を示そう」では、建設業において2024年4月から時間外労働の上限規制が適応され、現場巡回や工事書類作成などの現場監督業務をこなすだけでも時間が足りないのに、その中でどのようにOJT(建設現場での技術者育成)を両立させるかということについてお話ししました。

 そして、それを支援する仕組みとして、建設業の技術者に特化した”スキルマップ”の作成をご提案いたしました。スキルマップは、指導される側・指導する側・指導を管理する側の誰もが容易に理解でき、育成の共通の指針となるものです。指針が明確に示されれば、短い時間の中で、効率的にOJTを実践できます。

 しかし、スキルマップには「”何を(What)””いつ(When)”教育するか」は記されますが、「”どう(How)”教育するか」は記されません。どんなに便利な道具でも、使い方がうまくなければ、目的は果たせません。そのため今回は、スキルマップを活用した、建設技術の誰にもわかりやすい伝え方を提案します。

言語化して伝えるわかりやすいOJT(建設現場教育)

 建設業に限らず、従来より技術は、「自分で見て盗め」「師匠の背中から学べ」といわれるように、経験からのみ習得するものという認識が根強く残ります。当然机上の勉強だけで技術は身に付くものではありませんため、正しいといえます。しかしながら、何もかもが経験しないと学べないのかというと、そうでもありません。つまり、非常に複雑で個人に内在しがちな技術であっても、言語化し経験を介さなくても伝えられる部分もあります。


 よって、技術と漠然と捉えていては言語化が難しいため、先ずは知識と技能の2つの要素に分解します。そしてそれぞれの内、できる部分を言語化する。これにより新人や若手でも、経験する前に、最低限のことを理解した状態にする方法を提案します。目に見えるもので示す方がわかりやすいため、下の建設業技術者用のOJT実施管理表がその一つであり、これを題材に説明します。

1.知識

 知識とは、「頭の中にある情報」とここでは簡単に定義します。例えば、スキルマップに「施工計画書の作成」というスキルが設定されており、1年目においては「施工計画書の一部を上司の指示や過去の例に従い作成できる」という習得水準が定められているとします。この水準までスキルを習得するために必要な知識を挙げると「工事内容、施工計画書に記載する項目の理解に足る知識」ということになります。そもそも工事内容や施工計画書の記載項目を知らなくては、施工計画書を記入することはできないため、当然といえます。

 次にもう少し知識を深掘りし、この必要知識を得るための参考情報は何かを特定します。つまり、自分の頭の中の情報を言語化して伝えられれば一番良いのですが、多忙の現場の中でわざわざ一から文章を書くなんてことはやってられません。そのため、それが記されている資料を挙げるということです。工事内容や施工計画書の記載項目を理解する程度の知識を得るためと考えると「契約書、設計図書、関係図面、過去の類似工事の施工計画書」等が挙げられます。

 ここで重要なのは、スキルの習得水準に達成するまでのすべての知識やすべての資料を特定し、言語化する必要はないということです。それをやろうとすると過度に時間と労力がかかり、実践できません。結局「見て盗め」の方が早くて楽なので、ここに戻ってしまいます。そうではなくて、あくまでもできる範囲でいいのです。「この参考資料を見れば50%の知識は得られます。ここに書いてないことはいつでも聞いてください」と伝えられればそれでいいのです。若手の立場に立ってみれば、忙しい所長の手を止め、何度も質問することは精神的に非常に大きな負担になります。対して、50%でもいいから「自分で調べられるものがある」というのは、この負担が軽減され、自己肯定感も高まるため大きな違いがあるのです。さらに所長の方から「資料だけではわからないことがあるから聞いてください」と言っているのだから、聞きやすくなります。つまり、できることを極力言語がすることで、言語化できないこともありそれは聞いて当然という雰囲気がつくられる。人材育成において、これが非常に重要なことなのです。

2.技能

 技能とは、「体をつかってすること」とここでは簡単に定義します。ここでも知識と同じく1年目の技術者に「施工計画書の一部を上司の指示や過去の例に従い作成できる」水準を習得させることを例にとると、「施工計画を文章と図表で表すことができる技能」ということになります。

 次に、この技能をどのような機会に伝えるのか、さらに深掘りすると「1項目ずつ、PCの操作や過去の資料の引用の仕方などをやって見せ、やらせてみせる」ということになるでしょう。1年目の方はまだ何もわからないので、1対1の付きっきりで「この施工計画書のこの部分をこのようにコピペして、ここの部分だけは異なるから、ここはこの資料のこの部分をコピペして…」と教え、やらせてみては修正することを繰り返すしかないでしょう。

 技能においても知識と同様に、すべてを言語化する必要はありません。言語化できないから知識(形式知)化されずに、技能(暗黙知)として個人の中に留まっているものであるので、それを若手の前で披露する機会を設定する。これだけでも大きく前進します。

 人材育成や技術伝承というと堅苦しいですが、「必要知識」と「参考資料」、「必要技能」と「指導機械」の4マスをできる範囲で埋めることと簡単に定義し直してみる。そうすると、「そこまで大変なことではない」と教える側は気が軽くなり、「やってみよう」という意欲が高まると思われます。

近い立場・役割の人がOJT(建設現場教育)を担うのが最適

 ここまでは、個人の経験や勘に拠らない人材育成方法について記してきました。しかし、結局は現場で人が人に指導するわけですから、何をいつどう教えるかに加えて、誰が教えるかという要素を排除することはできません。

 時間外労働の上限規制に備えて、定年を迎えたベテラン技術者と再契約し、若手の教育とする会社が多くあります。しかし、あくまでも弊社が把握する範囲ですが、うまくいっている例をあまり聞きません。その理由として、年齢が離れすぎている、またCADや現場管理の各種ソフトウェア等の操作を教えられないなどが主なようです。そのため、若手の指導は、年の近い人や今使われる知識や技能を教えられる人に任せることが最適といえます。

 そのため、指導者に対する教育も求められます。具体的には、スキルマップに基づき若手ともに成長目標を設定し自発的に習得に向かうよう促すコミュニケーション手法。その他、ティーチングやコーチングの手法などを養成する必要があります。育成方針(スキルマップ等)と育成を支援する道具(OJT実施管理表等)とこれらを活用し若手を指導する指導者への教育(コーチング・ティーチング研修等)の3つを揃えることで、組織的・計画的・継続的な現場での技術者育成の体制が築かれます。

 以上のとおり、人材育成の指針となるスキルマップと、スキルを知識と技能に分解し、誰にもわかるように言語化して伝える方法は、労働時間が短くなる中、着実に若手技術者を育成する仕組みとして有効であり、採用することが推奨されます。

 ただし、ここに記した内容でも実施が難しい、時間がないという場合は、さらに簡易化することも可能です。例えば伝えたいスキルに対して関連知識を得るための参考資料のみ列挙するとか、技能の1部分を言語化するだけでもよいです。

 何の予備情報もないまま難しいスキルをやって見せられる、またはやってみろといわれる若手の負担を考えてみてください。少しでも事前にわかるものがあることで得る余裕や自信は、できることが当たり前になっている所長やベテラン技術者が想像するよりはるかに大きいものなのです。

コンサルタント紹介

片桐雄佑 (かたぎり ゆう)
株式会社日本コンサルタントグループ 建設産業研究所 コンサルタント

千葉大学大学院修了。家具の製造・販売や内装工事を扱う会社にて、設計職と事業企画職を担当。その後ベンチャー企業の経営企画を経て、現職。現在は建設会社を主な顧客とし、経営計画の策定、業務改善、人材育成などを支援する。

最近の担当実績
小規模電気工事会社 経営再建計画の策定
地場ゼネコン 中期経営計画の作成と実行支援
大手ゼネコン 工事現場業務のDX支援
大手設備工事会社 人事制度の改定
大手ゼネコン 人材育成体系・教育プログラムの設計

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