記事のポイント
- 生鮮部門では加工精度(歩留まり)と製造スピードが粗利に直結するが、技術水準が「見えない」ことが不満や離職につながりやすい
- ヤオコーの「おはぎ検定」は合格率が毎回約3割という狭き門であり、合格者だけがおはぎの製造を任される厳格な運用がなされている
- 技術審査制度は単なる品質管理の手段にとどまらず、スタッフのモチベーションや定着に結びつく仕組みとしても機能し得る
青果・水産・精肉・惣菜という生鮮4部門の商品づくりは、原材料の加工精度(歩留まり)と製造スピードに粗利が直接左右されます。たとえば刺身の歩留まりがわずかに変わるだけでも、日々積み重なれば粗利に大きな差を生みます。しかし現場スタッフの技術水準が「見えない」状態にあると、作業進捗の管理が難しくなるだけでなく、技術の高いスタッフが正当に評価されず、不満や早期離職につながるリスクが高まります。周囲から見れば同じ「精肉担当」でも、実際の技量には大きな差があるというのが現場の実感でしょう。
この課題への一つの答えとして、技術を客観的に可視化し、給与や等級に連動させる「生鮮技術審査制度」があります。埼玉県を中心に展開するヤオコーは、名物商品「おはぎ」について、あんことお米の比率や握り方を厳しくチェックする独自の技術認定試験「おはぎ検定」を実施しており、合格率は毎回約3割という狭き門とされています。合格したスペシャリスト(2021年時点で社内510人)だけがおはぎの製造を任されており、惣菜部門の4大主力商品を対象にこの試験を導入しています。合格すると任される業務範囲が広がり、手当にも反映される仕組みです。業界大手のライフコーポレーションでも、職種別の技能検定を職能等級の昇格試験と組み合わせる制度を運用しています。
これらの事例に共通するのは、技術審査を単なる品質管理の手段として終わらせず、スタッフの評価や処遇と明確に結びつけている点です。歩留まりや廃棄ロスは技術の巧拙によって大きく変わるため、こうした制度はスタッフの定着だけでなく、ロスの最小化という利益面にも直接効いてきます。
こうした技術認定制度の効果は、「手当が増える」という金銭的な動機づけよりも、「合格率3割の狭き門を突破した」という達成感やステータスそのものから生まれている面が大きいはずです。合格者数が限られているからこそ称号に価値が生まれ、周囲からの見られ方も変わります。もし合格率が8割、9割であれば、同じ制度でもここまでのモチベーション効果は生まれなかったでしょう。逆に、多くの人が到達できる基準にしてしまうと、称号としての重みが薄れ、効果そのものが弱まってしまう可能性もあります。「狭き門であること」自体が制度設計の核心だとすれば、合格基準の厳しさをどう設定するかは、想像以上に重要な論点になります。
自店で技術審査のような制度を検討するとしたら、その合格基準は「多くの人が到達できる目標」と「一部の人しか到達できない誇り」のどちらを目指すべきでしょうか。
