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第10回:小売から「高利益サービス企業」への脱皮

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記事のポイント

  • 広告事業「Walmart Connect」が爆発的に成長。実際の購買データに基づく精度の高さで新たな利益の柱へ
  • AIによる利便性・体験価値の向上が、価格重視ではない年収10万ドル以上の「高所得者層」の獲得を可能にした
  • 小売で培ったAI技術や物流網を他社へ提供する「SaaS/外販ビジネス」が将来の収益ミックスを変える

ウォルマートが今、広告ビジネスやデータの収益化によって、自らの利益構造を根本から作り替えていることをご存じでしょうか?現在のウォルマートは、もはや単に「モノを安く売る」だけの企業ではありません。同社は小売業として蓄積してきた膨大なアセットを、「高利益なサービス」へと転換させる第2の創業期にあります。

その変革の象徴が、リテールメディア事業「Walmart Connect」の爆発的な成長です。GoogleやMetaのようなプラットフォームとウォルマートの最大の違いは、広告を見た人が「実際に店舗やオンラインで購入したか」という購買完結データ(Closed-Loop Measurement)を握っている点にあります。メーカーにとって、この精度の高いデータに基づくターゲット広告は極めて魅力的な投資先となっており、FY2025第3四半期には前年比53%増という驚異的な成長を記録しました(参考:Walmart FY2025 Q3 Earnings)。広告ビジネス一般に言われる利益率は一般的な小売(2~4%)を遥かに凌ぐ70~80%とも言われており、この収益がウォルマートの「低価格(EDLP)」戦略を維持するための強力な原資となり、さらなる顧客流入を呼ぶという「持続的な好循環(フライホイール)」を生み出しているのです。

※ウォルマートの「フライホイール戦略」はAmazonのジェフ・ベゾスが提唱した概念を応用したものとして知られており、「低価格→集客→広告収益→さらなる低価格」の循環のこと

この変革は、ブランドイメージと顧客層の拡大にも劇的な変化をもたらしました。かつてウォルマートは「低所得者向け」というイメージが先行していましたが、第6回で触れたAI検索や第9回の即時配送といったテクノロジーの力が、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する年収10万ドル以上の高所得世帯の心を掴みました。彼らは安さだけを求めてウォルマートに来るのではなく、AIが提供する「ストレスのない買い物体験」を評価して訪れています。この高単価・高頻度の顧客層の獲得は、同社の売上総利益の質を根底から向上させました。

最後に、将来に向けた戦略的提言を3点にまとめます。

第一に、膨大な顧客データを扱う上での徹底したAIガバナンスと倫理基準の確立です。信頼は21世紀の通貨であり、データ活用とプライバシー保護の高度な両立こそが、ブランドの持続可能性を左右します。

第二に、広告、サブスク(Walmart+)、およびSaaSへのビジネスミックスのさらなる転換です。ウォルマートは自社で磨き上げたルート最適化AIや在庫管理システムを「Luminate」などの名称で他社やメーカーに外販し始めています。自社のインフラを「サービス」として売るこの戦略は、同社を小売の枠を超えた「B2Bテック・プロバイダー」へと押し上げるでしょう。

第三に、AI時代における210万人の従業員への継続的な人間投資です。AIがルーチンを肩代わりするからこそ、従業員には「顧客への共感」や「現場の創意工夫」といった、AIには代替不可能な感性の発揮が求められます。

AIによって「便利・安い・高収益」という、かつては二律背反と思われていた三位一体を実現したウォルマートのモデル。この「物理資産×AI」による変革の軌跡は、デジタルとリアルの境界が消滅する21世紀の全てのビジネスにとって、避けては通れない最強のベンチマークとなるでしょう。

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