執筆者:小松 茂樹
測定できるものが、改善できる
私たちは、お客様から営業力強化についてお問い合わせをいただく際、多くの場合「まず現状把握からはじめましょう」とお勧めしています。
品質管理の父であり、PDCAサイクルの生みの親であるエドワード・デミング博士は、次のように述べています。
「定義できるものは、管理できる
管理できるものは、測定できる
測定できるものは、改善できる 」
何かの改善を試みるならば、まず対象を測定できるようにしなければならず、それを測定するためには対象を管理できるようにする必要があります。そして、対象を管理するためには、第一に対象を定義しなければならないのです。
それでは、「営業力」はどのように定義すればよいのでしょう。
「営業力」を定義する
みなさんは「営業力」と聞いて、どんなものを思い浮かべるでしょうか。
会話力、伝達力、傾聴力、交渉力・・・といった対人関係スキルを思い浮かべるかもしれません。 あるいは、自社商品への理解、市場や競合への理解、商行為そのものや契約締結に対する理解など、知識的な側面も求められます。
加えて、顧客の経営課題を解決する「ソリューション営業」であれば、そうした一般的な営業力に加えて、顧客に対する情報収集力、洞察力、分析力や、商談シナリオの作成や質問項目の設計、提案のストーリーを描くための論理構築力も必要になります。
そして、そうした能力を効果的に発揮できるために、正しいプロセスに沿って活動ができているかも、営業力を大きく左右する要因になります。
営業力とは「保有能力」ではなく、「発揮能力」です。 したがって、営業力を改善・向上・強化するためには、まずは営業力がどのような要素から構成されているのかをしっかりと定義づけしなければなりません。 不明確な対象に対して、明確な対策を講じることはできないからです。さらには、営業力を定義できたとしても、それをしっかりと測定できなければ、その先のステップに進めることはできません。 「測定する」ということは、定量化(数値化)するということです。
例えば、「提案力が弱い」という認識をしていたとしても、
- 現状の提案力はどのくらいあるのか
- その提案力を、どんなレベルにまで引き上げたいのか
- それはつまり、何ができるようになることなのか
を表すことができなければ、具体的な対策に落とし込むのは困難です。
これらを明確に示すことができれば、その実現に向けた具体的な対策を立案することが容易になります。 「営業力を定義し、測定する」すなわち、正しい「現状把握」を行うことがソリューション営業力強化の第一歩です。
ソリューション営業力を強化する3つの視点
弊社がソリューション営業力強化をご支援する際、多くの場合、まず下記の3つの視点から現状の営業力の測定を行います。
- 営業活動プロセス
- 営業スキル
- 時間の使い方
営業力」はこの3つが密接に絡み合って構成されています。
1.営業活動プロセス
営業活動の具体的な活動と手順を表したものです。これをどれだけ適切に、効果的に進めることができるかが、組織としての営業力を左右します。
私たちが最終的に得たい結果としては、「売上」「利益」「顧客のロイヤリティ」などが挙げられます。これらはすべて「結果」です。残念ながら、結果を直接的にコントロールすることはできません。結果をより良いものにするためには、その結果を生み出す「原因」をコントロールするほかないのです。そして、この原因に相当するものが営業活動の「プロセス」です。
弊社では、ソリューション営業活動の汎用的なモデルとして、
- プランニング
- リレーション
- ニーズ把握
- プレゼンテーション
- クロージング
- アフターケア
の6カテゴリ(18の詳細機能)からなるプロセスを定義しています。
すべての結果には原因があります。結果とはアウトプット(出力)であり、それを生み出すためには必ずインプット(入力)が必要です。 アウトプットを直接コントロールすることはできませんが、インプットはコントロールが可能です。
- どのようなお客様をターゲットとして選定するのか、
- どの程度の頻度や密度でお客様へアプローチするのか、
- 商談をどのように深掘りしていくのか、
- どのように自社の強みを訴求するのか
自分の力でコントロールできることに集中し、インプットの質を上げていくことが、営業力の強化につながります。
*営業活動プロセスの定義はこちらからご確認ください
2.営業スキル
前述のプロセスの定義に基づいて、適切に活動を進めていたとしても、それが 効果的に機能するかどうかは、営業担当者の保有スキルに依存します。 スキルの高い者が行えばプロセスは効果的に作用しますが、スキルの低い者が 行えばその効果は限定的になります。したがって、営業プロセスをより強力に機能させるためには、担当者個人のスキル強化も課題になります。
弊社では、ソリューション営業に求められるスキルの一般的なモデルとして、
- 概念形成力
- 関係構築力
- 顧客把握力
- 交渉力
- 自律性
- 知識要件
の6カテゴリー(24のスキル)からなるスキル体系を定義しています。
「2.関係構築力」「3.顧客把握力」「4.交渉力」などは、どのような営業スタイルであっても求められる営業としての必須能力だと言えるでしょう。加えて、ソリューション営業においては、情報を分析する力、問題を構造化し て捉える力、お客様の仮説課題を構築する力、それらを適切に行うために言語化する力など、「1.概念形成力」の有無が、営業活動のパフォーマンスを大きく左右します。
また、お客様の経営課題を解決する「ソリューション営業」を実践する上では、業種・業界・業態に対する理解、業務内容そのものに対する理解の有無が、提案のベースとなる仮説課題に強く影響するため、お客様の状況や背景を洞察する前提となる「6.知識要件」も大きく問われることでしょう。
さらに、ソリューション営業を成し遂げるためには、広範で長期に渡る活動プロセスを計画し、管理し、適宜軌道修正する「5.自律性」も欠かせません。
3.時間の使い方
営業活動プロセスが適切に定義され、高いスキルを保有していたとしても、やるべき活動に十分な時間が割り当てられていなければ、成果を期待することは難しいと言えるでしょう。
仕事は時間でできています。営業力を高めるためには、営業活動の本来業務に十分な時間を割り当てることが求められます。 弊社では営業担当者の時間の使い方を、下記の8カテゴリに分類しています。
- 面談
- 移動
- 面談準備
- 顧客対応
- 社内ミーティング
- 社内調整
- 事務処理
- その他
小さい番号ほど営業活動としての直接度が高くなり、番号が大きいほど間接的な業務になります。 特に1~4は「顧客のために使う時間」として定義され、この時間を十分に確保するために、いかにして5~8の活動を圧縮するかが、時間管理の課題になります。
営業力の現状を可視化する
ソリューション営業力の強化を図るためには、まず上記3つの視点に基づいて、営業力の現状を把握することが求められます。
弊社では、営業活動プロセス・営業スキル・時間の使い方を定量的に測定するための診断プログラムをご提供しております。
- 自社の営業力のどこに強み/弱みがあるのか
- 部署や年代、経験などによって傾向はあるのか
- 営業力強化の取組はどこからはじめれば良いのか
診断プログラムを用いて個人の現状を測定し、それを集計して組織の傾向を分析することにより、これらの問いに対する答えを明確にすることができます。