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お客様のニーズを引き出すヒアリングの極意

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記事作成日:2017年11月2日 (木)
執筆者:小松 茂樹

ニーズとはなんだろう 

どんな商品やサービスであっても、売れるのには理由があります。 人はみな、「痛みを避けて、快楽を追求する」という基本的な行動心理を持っているので、その欲求を満たしてくれるものを買おうとするものです。

自社の商品やサービスが、問題を解決したり、不安や悩みを解消できるものだとお客様の目に映れば、「痛みを避けようとする心理」が購買意欲を喚起します。あるいは、自社の商品やサービスが、より高い成果を生み出したり、意欲を向上させたり、安心や安全をもたらしたりできるものだとお客様の目に映れば、「快楽を求めようとする心理」が、購買意欲を喚起します。

こうした、不便や不満足の解消や、成長や成功、快適さなどを求めようとする欲求のことを「ニーズ」と呼びます。 

ヒアリングの役割

営業担当者(またはお客様と接点を持つ技術担当者)の役割は、『自社の商品やサービスがお客様のニーズを満たす存在であることを、お客様自身に理解・自覚してもらえるよう働きかけること』です。 

ニーズはお客様がすでに自覚している場合もあります。一方で、なんとなくもやもやしているが、お客様自身がニーズに気づいていない場合もあります。 前者を「顕在ニーズ」、後者を「潜在ニーズ」と呼びます。

「顕在ニーズ」の場合、お客様はすでに手段としての商品やサービスを探し始めていることが考えられます。自社の商品やサービスを顕在ニーズを満たすための選択肢として挙げてもらえるよう働きかけることも重要ですが、それ以上に大切なのは、「潜在ニーズ」を発掘して、お客様自身の意識に浮かび上がらせることです。 

つまり、商品やサービスを購入いただくためには、その機能や便益を理解する以前の問題として、まずはお客様自身が自分のニーズに気付き、「何とかしたい」と思っていただく必要があるということです。

それを手助けするべく話を引き出し、情報を収集し、整理して課題を明確にするための手法が「ヒアリング」です。ただし「ヒアリング」と言っても、単純にお客様の話に耳を傾ければ良いというものではありません。 何しろ、お客様自身が自分のニーズに気づいていないのであれば、ストレートに尋ねたところで明確な回答が返ってくるはずもありません。 

たとえば、次のような会話を想定してみてください。

 

担当者:「御社にはどのような課題がございますか?」 

お客様:「課題かあ。いっぱいあるなあ。人手も足りていないし、開発力も乏しい気もするし、営業の能力も低し、社内の情報共有もできていないし、事務処理も多いし・・・」 

担当者:「そうですか。弊社には社内SNSのシステムがありますが、こういったもので社内の情報共有のしくみを作るのはいかがですか?」 

お客様:「うん。まあ、それも必要かもしれないけど、優先はそれではない気がするなあ」 

担当者:「営業活動を管理するSFAのシステムもございます。営業の状況を正確に把握することで、マネジメントの強化をすることができます」 

お客様:「営業のマネジメントねえ。でも、新たにシステムを入れるとなると、入力作業も増えるだろうし、営業部門が反発しそうだなあ」 

担当者:「採用活動の効率化をするための、人事管理のシステムもございます」 

お客様:「まあ、そうは言っても、そもそも募集しても応募が来ないご時世だからねえ。難しいだろうなあ。まあ、いいや、とりあえず御社の商品のパンフレットを見させていただけますか。一度、社内で検討して、またこちらから連絡しますよ」  

この会話から、ご注文をいただくのは至難の業です。 先にお話したとおり、自社の商品やサービスの価値を認識していただくためには、お客様に自身のニーズを自覚していただく必要があります。

それはすなわち、会話の流れを通じて、お客様自身の内面に目を向けていただくことを意味します。単純に商品やサービスを紹介するだけでは、焦点は導入の是非に向けられてしまい、お客様自身を深く洞察することはできません。 

  • お客様の現状はどのようなものか 
  • お客様の望ましい姿、状態はどのようなものか 
  • 理想と現実の間には、どのような乖離があるのか 

営業担当者には、適切な質問をまじえながら、こうした「お客様自身」についての洞察を掘り下げていけるよう、会話を導いていく力量が求められます。 

 お客様の真の課題を浮き彫りにするための仮説思考 

商品やサービスが飽和した現代市場で「何かを売る」というのは、難しい行為です。 お客様のニーズが細分化し、価値観が多様化し、経済がグローバル化して競争が激しくなり、お客様自身が容易に情報収集できる環境になった現代では、「売る」ためのプロセスはより複雑になっています。つまり、「売る」ためには時間を要するようになっているのです。 

アメリカの実業家・コンサルタントであるブライアン・トレーシーによれば、現代で商品やサービスを販売するためには、平均して4~6回の訪問が必要とされています。 はじめてお会いしたお客様に商品をご案内し、その価値をご理解いただき、その場で購入を決断していただくことは、困難の極みと言えるでしょう。とりわけ、企業間取引においては、購入の意思決定者にはじめからお目にかかれることは稀です。

お互いの利害を明確にし、信頼関係を構築し、お客様のニーズを浮き彫りにし、そのニーズを満たす手段として、自社の商品やサービスを提供する。

このプロセスを進めるためには、何度も足しげく、お客様の元に通い続けることが必要なのです。4~6回の訪問をするといっても、当然、毎回同じ話をするわけにはいきません。訪問を重ねるごとに、異なる話、より前進した話ができるようになることが求められます。もちろん、次回の訪問に手ぶらで行くことはできません。何かしら「お土産」が必要です。 

「お土産」は情報提供でも良いし、異なる提案でも良いし、より研ぎ澄まされた提案でも良いし、商品のデモンストレーションでも良いです。しかし、少なからず、お客様が欲しいと思う「何か」を用意できなければ、お客様にとっては営業担当に会わなければならない「理由」がありません。 次の訪問の機会をいただくためには、訪問した際に、次に訪問する口実すなわち「宿題」をいただく必要があるのです。

私が営業研修を行う際に、受講者の方にしばしばする質問があります。 それは、「1回目の訪問の目的は何ですか?」というものです。  

  • 自社を知ってもらうため
  • 商品を紹介するため
  • 顧客の状況を知るため
  • 人間関係を構築するため

など、様々な答えが返ってきます。どれも正解と言えますが、しかしどれも不十分だとも言えます。 

 1回目の訪問の目的は、2回目のアポをいただくことです。そして、2回目の訪問の目的は、3回目のアポをいただくことです。さらに、4回目の訪問の目的は、5回目のアポをいただくことなのです。毎回、訪問のたびに「宿題」をいただき、それを何度も繰り返す。 このプロセスが、現代の営業の流れなのです。 

 仮のストーリーを作ろう 

問題はどうやったら「宿題」をいただけるのかです。「何か、お困りのことはございませんか」「何か、お役に立てることはございませんか」など、抽象的で、対象が不明確で、相手に考えさせるような質問をして回答をいただけることはほとんどありません。 

大抵の場合、「特に思い浮かばないなあ。ま、何かあったら、こちらから連絡するよ」と言われて終わりです。 これでは、2回目のアポをいただくのは難しいでしょう。宿題をもらうためには、顧客の課題(またはニーズ)に結びつく「具体的な」質問をしなければなりません。そして、具体的な質問は、「その場の思いつき」や「ひらめき」だけでできるものではありません。準備が必要です。

会社案内やホームページを見る。中長期の経営戦略やIR資料が公開されていれば、それに目を通す。これまでの商談メモを読み返す。社内に営業の前任者がいれば、過去の話を聴く。お客様がメディアに情報発信をしていれば、その記事を読む。お客様に関する情報を収集し、業界の動向や、一般的な課題、そして自分の知見をすべて統合して、相手の状況をリアルに「想像」するのです。 

  • もしかしたら、若い世代が人員不足で、営業力や生産力が追いついていないのではないか 
  • もしかしたら、長時間労働を是正するために、生産性向上に取り組んでいるのではないか 
  • もしかしたら、社内の情報共有を推進するために、クラウドデータベースや新しいデバイスの導入を検討しているのではないか 

このように、手持ちの情報を用いて、相手の状況を察することを「仮説思考」と言います。

仮説とは、文字通り「仮のストーリー」です。すなわち、「もしかしたら、○○だろう」を考えるということです。そして、具体的な質問をするということは、仮説に基づいた質問をするということです。ここに、「幅」と「深さ」のある質問を掛け合わせることによって、お客様の課題に焦点をあてた「具体的な」話を進めることができます。話が具体的になればなるほど、不明確な点、調べなければならない点、考え直さなければならない点が出てきます。これが「宿題」になるのです。

「では、今日の話について詳しくお調べして、またご説明に上がります。来週のご都合はいかがでしょうか。」仮説思考に基づいた質問で話ができるようになれば、毎回の商談のクロージングはこのようになるはずです。そして、この訪問の継続こそが、案件を発掘し、注文をいただくための、地道な、しかし確実なプロセスなのです。

仮説思考は、生まれ持ったセンスではなく、トレーニングによって習得するものです。 情報収集と分析、仮説構築、質問項目の設計、そして商談の進め方を、ロールプレイング形式で訓練することによって、スキルとして身につけることができます。

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