記事のポイント
- セルフレジやAI自動発注を導入すれば自動的に生産性が上がるという発想には、現場オペレーション上の落とし穴が潜んでいる
- 操作に不慣れな顧客への対応で従業員が付きっきりになり、有人レジ以上の稼働時間を消費してしまうケースが報告されている
- 顧客が自身で会計を完結させるセルフレジの利用率は全体の約3割にとどまっており、多くの顧客は今も有人・セミセルフでのスピード会計を期待している
労働力不足をDXで補おうとする動きは、今や食品スーパーにとって欠かせない選択肢の一つになっています。しかし「セルフレジやAI自動発注システムを導入すれば、自動的に生産性が上がる」という発想には、見落とされがちな落とし穴があります。
操作に不慣れな顧客がフルセルフレジで立ち往生し、そのエラー解除や説明のために結局従業員が付きっきりになり、有人レジ以上の稼働時間を消費してしまうケースが多発しているという指摘があります。全国スーパーマーケット協会の調査によれば、会計をすべて顧客が自身で行うセルフレジの利用率は全体の約3割にとどまっており、多くの顧客は依然として有人またはセミセルフレジでのスピード会計を期待していると言われています。同じ「人手不足をテクノロジーで補う」という課題に対する参考として、飲食店の状況が挙げられます。飲食店では非正社員の人手不足割合が3年連続で改善し58.6%まで低下しており、モバイルオーダーや配膳ロボットの普及に加え、単発の仕事を柔軟に受発注できるスポットワークの広がりも、その一因とみられています。両者の差は、顧客に委ねる操作の複雑さそのものというより、テクノロジーを支えるスタッフの動線や案内体制まで含めて設計できているかどうかにあります。
スーパーのセルフレジと飲食店のモバイルオーダーでは、顧客に求める操作の質は異なります。しかし共通しているのは、テクノロジー導入そのものよりも、それを運用するためのスタッフの配置や作業基準まで含めて設計できているかどうかが、成否を分けているという点です。DXを真に機能させるには、システムを入れて終わりにせず、操作を支えるスタッフの作業基準や「レジ案内係の配置」までを一括りにして標準化し、現場のオペレーションと整合させることが欠かせません。
セルフレジの利用率が3割にとどまっている現状を、「顧客がまだ慣れていないから」という理由だけで説明するのは早計でしょう。エラー対応にあたる従業員の配置や案内の仕組みそのものが不十分なまま導入されているケースは、決して少なくありません。ツールを入れることと、そのツールを支える人の配置を設計することは本来セットであるはずなのに、後者が後回しにされたまま「導入した」という事実だけが先行してしまっているのではないでしょうか。
自店でセルフレジやDXツールを導入する際、そのツールを運用するスタッフの作業基準や配置まで、事前にどれだけ設計できているでしょうか。まずは直近1週間のセルフレジ対応時間を、有人レジと比較して記録してみるのも一つの方法です。
